古物台帳に書かなくていい取引|1万円未満と引渡しの免除
古物台帳には「書かなくてよい取引」がありますが、それと「本人確認をしなくてよい取引」は別のルールです。この2つを混ぜて覚えている方がとても多く、実際の指摘もそこに集中します。
結論から言うと、判定は2回します。1回目が記載、2回目が確認です。根拠になる条文も別です。まず全体の関係から見てください。
この記事の内容(12項目)
古物台帳の記載が不要になるのは「引き渡したとき」だけ
古物台帳の記載が免除されるのは、引き渡したときだけです。受け取ったとき(買受け・委託)は、古物の区分にかかわらず全部が記載対象になります。
根拠は古物営業法16条のただし書です。「当該記載又は記録の必要のないものとして国家公安委員会規則で定める古物を引き渡した場合は、この限りでない」とあり、その中身を施行規則18条1項が定めています。
受入れ(買受け・委託)
- 全区分が記載対象
- 衣類でも書籍でも書く
- 例外なし
払出し(売却・引渡し・返還)
- 4区分だけ記載対象
- 美術品類/時計・宝飾品類
- 自動車/自動二輪車等
- それ以外は免除
条文が二重否定で読みにくい
施行規則18条1項は「法第十六条ただし書の国家公安委員会規則で定める古物は、次の各号に該当する古物以外の古物とする」という書き方をしています。
つまり「次の4つ以外は、記載しなくてよい」という意味です。裏返すと、引渡しで記載が要るのは4区分だけになります。
古物台帳の記載が必要な4区分|引き渡したとき
施行規則18条1項が挙げているのは次の4つです。
| 号 | 古物の区分 | 備考 |
|---|---|---|
| 1号 | 美術品類 | 書画、彫刻、工芸品等 |
| 2号 | 時計・宝飾品類 | 時計、眼鏡、宝石類、装身具類、貴金属類等 |
| 3号 | 自動車 | その部分品を含む |
| 4号 | 自動二輪車及び原動機付自転車 | 部分品も含むが、対価の総額が1万円未満で取引されるものを除く |
4号のかっこ書きに注意してください。バイク本体は金額にかかわらず記載が必要ですが、部分品については1万円未満のものが除かれます。
自動車を引き渡した相手方は書かなくてよい
もうひとつ、規則18条2項に別の免除があります。法16条4号(相手方の住所・氏名・職業・年齢)の「国家公安委員会規則で定める古物」は自動車である古物とされています。
つまり自動車を引き渡したときは、取引そのものは記載しますが、相手方の情報は書かなくてよいことになります。品目や特徴は必要です。
古物の本人確認が不要なのは1万円未満のとき
古物の本人確認は、対価の総額が1万円未満なら不要です。根拠は法15条2項1号で、金額を施行規則16条1項が1万円と定めています。
ここで大事なのは、記載の免除とは条文が別という点です。「1万円未満だから台帳にも書かなくていい」ではありません。
よくある誤解
- 1万円未満は台帳に書かなくていい
- 衣類は本人確認しなくていい
- 記載と確認は連動している
正しい理解
- 1万円未満で不要になるのは確認だけ
- 受入れの記載は金額に関係なく必要
- 記載=規則18条/確認=規則16条
対価の総額で見る
条文は「対価の総額」と書いています。1点あたりではありません。同じ相手から複数点をまとめて買い取るなら、合計で判定します。
古物の本人確認が1万円未満でも必要な7種類
施行規則16条2項に例外があります。次の7種類は、1万円未満でも本人確認が必要です。
| 号 | 古物 | 想定される場面 |
|---|---|---|
| 1号 | 自動二輪車及び原動機付自転車(汎用の部分品を除く部分品を含む) | バイクパーツの買取 |
| 2号 | エアコンディショナーの室外ユニット及び電気温水機器のヒートポンプ | 金属目的の抜き取り |
| 3号 | 専ら家庭用コンピュータゲームに用いられるプログラムを記録した物 | ゲームソフトの買取 |
| 4号 | 光学的方法により音又は影像を記録した物 | CD・DVD・ブルーレイ |
| 5号 | 電線 | 銅線の抜き取り |
| 6号 | グレーチング(金属製のものに限る) | 側溝の蓋の盗難 |
| 7号 | 書籍 | 古本の買取 |
古本屋・ゲームショップ・リサイクルショップは、7号と3号と4号が日常業務に直撃します。1点500円の文庫本でも確認が必要です。
なぜこの7つなのか
並んでいるのは、単価が低いのに盗難が多いものです。電線やグレーチングは金属としての価値を目的に抜き取られ、CD・DVDやゲームソフトは万引きの転売先として使われます。
1万円の線引きだけだと、こうした品目がすべて確認の外に出てしまいます。それを塞ぐための例外です。
古物の委託を受けるときも本人確認は必要
見落としやすいのが委託です。法15条1項は「古物を買い受け、若しくは交換し、又は売却若しくは交換の委託を受けようとするとき」と書いています。
委託を受けるときも本人確認の対象です。買い取っていないので代金は発生しませんが、確認は必要になります。
台帳の代金欄は空のままで構いません。むしろ埋めてしまうと、あとで「いくらで買ったのか」と誤読されます。
古物台帳は免除される取引を書いてもよい
記載が免除される取引を、あえて書いてはいけないという決まりはありません。
在庫管理の都合で全部を記録している事業者は多く、それ自体は問題ありません。ただし免除だと分かる印を残しておくと、あとから見た人が「なぜこの行は相手方が空欄なのか」と迷わずに済みます。
残し方の例
- 備考に「規則18条1項により記載免除」と書く
- 記載義務の判定を列にして自動で出す
- 免除の行だけ色を変える
避けたい状態
- 免除の行と必要な行が見分けられない
- 相手方が空欄の理由が分からない
- 立入りで1件ずつ説明する羽目になる
古物台帳の記載が要るかを、取引の形ごとに見る
ここまでの条文を、実際の取引の形にあてはめます。同じ品物でも、受け取るときと引き渡すときで答えが変わります。
| 取引の形 | 記載 | 本人確認 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 衣類を8,000円で買い取る | 必要 | 不要 | 受入れは全区分/1万円未満 |
| 文庫本を300円で買い取る | 必要 | 必要 | 受入れは全区分/規則16条2項7号 |
| 腕時計を12万円で買い取る | 必要 | 必要 | 受入れは全区分/1万円以上 |
| 衣類を9,800円で売る | 免除 | — | 規則18条1項(4区分以外) |
| 腕時計を26万円で売る | 必要 | — | 規則18条1項2号 |
| 自動車を売る | 必要 | — | 規則18条1項3号。ただし相手方は規則18条2項で不要 |
| バイクの部品を6,000円で買い取る | 必要 | 必要 | 受入れは全区分/規則16条2項1号 |
| 絵画の販売委託を受ける | 必要 | 必要 | 受入れは全区分/法15条1項(委託) |
表を見ると、受入れの列はすべて「必要」になっているのが分かります。免除が効くのは払出しだけ、という条文の構造がそのまま出ています。
古物台帳の記載を省略できる場合(相手方の情報)
記載義務そのものとは別に、相手方の情報だけを省略できる取扱いがあります。
別記様式第15号の備考には、現に使用している帳簿に既に住所・氏名・職業・年齢が記載してある相手方については、氏名以外の事項で異動のないものの記載を省略できると書かれています。
省略できるもの
- 住所(変わっていない場合)
- 職業(変わっていない場合)
- 年齢(変わっていない場合)
省略できないもの
- 氏名(毎回書く)
- 取引の年月日
- 品目・数量・特徴
- 確認措置の区分
省略するときは、備考欄に「通番○と同一人」のように参照先を残してください。省略した理由が分からないと、記載もれと区別が付きません。
古物台帳の判定を毎回迷わないようにする
ここまでの2つの判定は、条文を覚えていないと毎回調べ直すことになります。一般には、台帳の欄そのものに判定を持たせておくのが確実です。
必要なのは2つの列だけです。取引区分(受入れか払出しか)と古物の区分。この2つがあれば、記載が要るかは機械的に決まります。確認のほうは、これに代金が加わります。
| 持たせる列 | 何のために | 無いとどうなるか |
|---|---|---|
| 取引区分 | 受入れ/払出しの判定 | 免除かどうかが決められない |
| 古物の区分 | 規則18条1項の4区分の判定 | 同上 |
| 代金(対価の総額) | 1万円の判定 | なぜ確認しなかったか説明できない |
| 7類に当たるか | 規則16条2項の判定 | 書籍やCDの確認もれに気づけない |
ポイントはここです。代金と古物の区分は、法定の記載事項ではありません。それでも入れておくのは、あとから「なぜこの取引では確認しなかったのか」を示せるようにするためです。
手で判定する運用でも回りますが、担当者が増えると判断がぶれます。判定を欄に持たせておくと、誰が書いても同じ結果になります。
古物台帳の免除と、他の帳簿の免除は別
最後に混同しやすい点をひとつ。古物台帳の免除は、他の法律の帳簿には及びません。
たとえば、買い取った品物を売るときに発行する領収書や、会計上の帳簿は、古物営業法とは別の法律で扱いが決まります。古物台帳で記載が免除される取引でも、他の帳簿では記録が要ることがあります。
古物営業法の話
- 古物台帳への記載(法16条)
- 相手方の確認(法15条)
- 3年の備付け(法18条)
別の法律の話
- 帳簿書類の保存(法人税法・所得税法)
- 領収書・請求書の扱い
- 古物商許可そのものの更新・変更届
判断に迷ったときは、それぞれの法律で別々に考えると整理しやすくなります。古物営業法の免除はあくまで古物台帳の話です。
古物台帳の判定を間違えたときの罰則
記載義務の判定を誤ると、法33条2号にあたる可能性があります。同号は法16条・17条に違反して必要な記載をせず、または虚偽の記載をした者を、6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金と定めています。
実務では、いきなり罰則が適用されるより先に指導が入ります。ただし迷ったときは書く、が安全側です。免除される取引を書いても違反にはなりません。
よくある質問
- Q. 1万円未満の買取は台帳に書かなくていいのですか。
- いいえ。1万円未満で不要になるのは本人確認だけです。受け取ったときの記載は、金額にかかわらず必要です。記載の免除は施行規則18条1項、確認の免除は規則16条で、別の条文です。
- Q. 「対価の総額」は1点ずつで見ますか。
- 取引の総額で見ます。同じ相手から複数点をまとめて買い取るなら、合計が1万円以上かどうかで判定します。
- Q. 古本を1冊300円で買い取りました。本人確認は必要ですか。
- 必要です。書籍は施行規則16条2項7号に挙げられていて、金額にかかわらず確認の対象になります。
- Q. 衣類を売ったときは、本当に台帳に書かなくていいのですか。
- 施行規則18条1項により、引き渡したときに記載義務があるのは美術品類・時計宝飾品類・自動車・自動二輪車等の4区分だけです。衣類の引渡しは免除されます。ただし買い受けたときは記載が必要です。
- Q. 委託販売を引き受けたときも本人確認が要りますか。
- 必要です。法15条1項が「売却若しくは交換の委託を受けようとするとき」も対象にしています。買い取っていないので代金は発生しませんが、確認は必要です。
- Q. 免除される取引を台帳に書いてしまっても問題ありませんか。
- 問題ありません。書きすぎることは違反になりません。ただし、免除であることが分かる印を備考に残しておくと、相手方が空欄の理由をあとから説明できます。
この記事で使うテンプレート
本記事は法令および官公庁の公表資料をもとに整理した参考情報です。法令への適合を保証するものではありません。実際の義務内容は e-Gov法令検索および所管官庁にご確認ください。内容は2026-08-22時点のものです。